I-HDFの効果、I-HDF条件の設定、プログラムI-HDFについて解説します。
① I-HDFとは
I-HDFは2007年に江口先生、峰島先生らにより使用報告がなされ、施行患者数も年々上昇し、2020年末には45,162人に達しています。それは全HDF施行患者数の28.3%を占め、全透析患者の13.0%に及びます。
I-HDFでは30分に1回などの頻度で透析液を使用して血液中に100~200mLほど補液を行います。そして補液した分も含めて除水をします。透析膜を介して補液をする方法と回路より補液する方法があります。
② I-HDFの効果
I-HDFの効果として、①末梢循環改善 ②透析中の血圧の安定 ③逆濾過による透析膜の洗浄による溶質除去率の亢進 があげられます。
末梢循環改善効果についてですが、末梢において、小動脈から体に必要な栄養素などが細胞に渡され、不要となった老廃物が小静脈に運ばれる、末梢循環が存在します(図1)。除水に伴い末梢血流量が減少すると、末梢の循環不良が起き、老廃物が蓄積します(図2)。I-HDFにおいて間欠的に補液を行うことにより、末梢循環血液量が回復し、老廃物が効率的に除去されます(図3)。
血圧は末梢血管抵抗x心拍出量で規定されます。心拍出量は循環血液量が増えると増加します。透析では、血液より直接水分を取り除くので、循環血液量がその分減り、心拍出量が減り血圧低下を引き起こします。それに対し、足やまぶたなどの浮腫みの原因となる、間質と呼ばれる血管の外にある水分が、血管の中に移動する現象(プラズマ・リフィリング)によって循環血液量が増加し、血圧が保たれます。また、血管が収縮することにより、末梢血管抵抗が増加することによっても血圧が保たれます。I-HDFでは定期的な補液が循環血液量を維持させ、プラズマ・リフィリングを促進し血圧を維持させます。
③I-HDFの条件設定について
補液速度、補液量、補液間隔について解説していきます。
補液量に関してですが、古くから体位変換によって急激に循環血液量が変化するとことが知られていました。仰臥位と立位を比較すると立位では重力の影響で下肢の毛細管圧が上昇し,その結果水分が血管内から間質・組織に移動し,血漿量は10% 程度減少するといわれています(日内会誌 2008;97:2892-2896)。逆に立位から臥位になると循環血液量の約11%が下肢から全身に移行するといわれています(図4. Acta Physiologica Scandinavica 1952;26:312-327)。このように循環血液量の変化として10%程度の動きは日常的に起こっています。I-HDFでの急速補液量は安全性も考慮し、循環血液量の5%以内と設定されています(Blood Purif 2013;35(suppl 1):55–58)。長尾先生らの検討によると、200mL補液した際、体重と循環血液量の変化には一次の関係が示されており、200mlが5%上昇に相当する体重は55.0㎏でした(clinical engineering 2019;30:1017-1022)。一般に体重の1/13が循環血液量といわれており、循環血液量の5%が200mlとなる体重は何㎏かを計算すると、体重52㎏の人の循環血液量の5%が200mlとなります。私どもは以前、ドライウェイト52.0kg以上と未満の二群に分け、補液量100ml/30minと200ml/30minでそれぞれ比較しました。52.0㎏以上群では100mlより200mlの方が透析中の最低血圧が高値であったが、52.0㎏未満群では差を認めませんでした。52.0㎏未満の患者では補充量は100mlで十分と思われました(Blood Purif 2019;48 Suppl 1:27-32)。1回の補液量の目安としては、ざっくりと2つに分けるとすると、体重 55kg 以上で200ml、体重 55kg未満で100mlとすれば無難かと思われます。ただし、血圧や体重増加に対する総除水量や補液間隔によっては補液過剰となる可能性があり注意が必要です。
補液間隔についてですが、長尾先生の研究で、循環血液量(BV)モニターで16分に4%の循環血液量の低下(ショックパターン)がみられると、急激な血圧低下を引きおこすことが示されました(図5, clinical engineering 2019;30:1017-1022)。I-HDFでは体重増加分の除水に加え、間欠補液で補った分の補液も除水しなければなりません。補液間隔が短いと短時間で補液した分を除水しなければならず、BVの傾きが急峻になる可能性があります(図6)。ショックパターンが16minに4%の低下ですので、もしBVの5%程度の補液をするなら、体重増加分の除水の量や、その時すでにどれだけBVが減少しているか、プラズマ・リフィリングの量にもよりますが、16分以上、安全性を考慮して、一般に行われている30分間隔が妥当と考えます。もともとの体重増加が多く、時間除水量が多い場合はBVの傾きが急となりやすいですので、BVが過度に減少しないか注意が必要です。体重増加量に伴う総除水量やBVの減少速度、減少率を考慮したI-HDFの条件設定が今後の課題と考えます。また、低アルブミン血症などによりプラズマ・リフィリングが低下している場合もショックパターンを呈しやすいので注意が必要です。
補充速度に関し、私どもは補液条件200ml/30minのもとで補液速度100ml/minと150ml/minで比較したところ、透析中の最高血圧、最低血圧、血圧低下に対する処置回数に両者に差はなく、KT/Vはそれぞれ146 ± 0.31, 1.54 ± 0.44と有意 (P=0.022) に150ml/minの方が高値であったことを発表しています(透析会誌 2018; 51 (suppl 1); 818)。図7.にクリアランスと濾過流量の関係を示します(Nephrol Dial Transplant 2014;29(suppl 3):iii461-62)。逆濾過中でも水のながれに逆らって、特に小分子の拡散による除去は、さほど効率を落とさず行われていますが、逆濾過中はQBが一過性に低下する影響もあってか、逆濾過時間が4時間だと4分40秒長い、補液速度100ml/minの方がKT/Vが低値でした。極端な高血圧など特別の問題がなければ補液速度は100ml/minより、150ml/minがよいと考えます。
④プログラムI-HDF
江口先生は補充量と回収量(補充分の除水量)を毎回均一とした『固定型』、最後に補充で終了し、回収は行わない『補充終了型』、前半は補充量を少なくし、回収量を多くして徐々に補充量は増やし、回収量は減少させる『階段状補充強化型』などプログラム補液、プログラム除水を提唱しています(図8, 第5回I-HDF研究会, 2021)。透析後半に血圧が低下する患者さんには補充終了型や、階段状補充強化型が有効となるかもしれません。
<まとめ>
以上をまとめると、
・I-HDFとは30分に1回などの頻度で血液中に100~200mLほどの透析液を注入する透析の方法
・①末梢循環改善 ②透析中の血圧の安定 ③逆濾過による透析膜の洗浄による溶質除去率の亢進 といった効果が期待できる
・1回の補液量は、ざっくりと2つに分けるとするなら、体重 55kg 以上で200ml、体重 55kg未満で100ml
・循環血液量の5%程度の補液をするなら、体重増加分の除水の量にもよるが、30分間隔が妥当と考える
・補液速度は100ml/minより、150ml/minが望ましい。
ただし、血圧や体重増加など、個々の患者さんの状態を総合的に判断して条件を設定していく必要があります。今後は個々の症例に対し血圧、BV計などをモニタリングしながら条件を設定していくオーダーメード治療が発展し、I-HDFの設定はより多様化していくものと思われます。