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2023/06/20 (火)
不均衡症候群について
今回は不均衡症候群の症状、原因や対処方法について解説します。
<症状> 不均衡症候群は、主に透析を始めたばかりの導入期に見られる合併症で、透析中や終了後に頭痛、嘔気・嘔吐、脱力感などの症状を認めます。通常は一過性で、数時間程度で回復します。
<原因> 不均衡症候群の原因の詳細はまだ不明ですが、脳の血管内外に浸透圧の不均衡がみられることが原因の一つとして考えられています。
  浸透圧とは、2つの濃度が違う水が隣り合わせのときに、濃度を一定に保とうとして水分が移動する力のことです(図1.)。
 成人では体重の約60%が水分で、細胞内が40%、組織間液(組織液, 間質液とも呼びます)が15%、血漿が5%です(図2.)。保存期腎不全では、長期間にわたって徐々に尿素窒素などの老廃物が蓄積します。こうした老廃物は細胞内、組織間液、血漿いずれにも溜まっていきます。血液透析では、この老廃物は血管内の血漿から、透析液との濃度勾配に従って拡散で除去されます(図3.)。血漿中の老廃物は速やかに血液透析で除かれますが、細胞の中に蓄積している物質は組織間液にでて、そして血管内に移動することにより始めて除去されます。さらに脳には血液脳関門があるため、特に脳内の血管外の老廃物は除去されるのに時間がかかります。
 よって、血管内の老廃物は除去されているが、血管外には老廃物がたまっているという状態が起きてしまいます。老廃物は浸透圧を持つので、血管外の浸透圧が高く、血管内が低いという不均衡が生じます。そうすると、浸透圧によって、血管内から血管外へ水が移動し、細胞がむくんできます(図4)。
 先ほど触れたように脳には血液脳関門があり、特に浸透圧格差が生じやすくなると思われます。脳内の血管外液が増加すると、脳浮腫を起こし、脳は頭蓋骨の中の限られた空間にあるため、頭蓋内圧(脳圧)亢進状態となります。そのため、頭痛・吐き気・嘔吐、重症の場合には意識障害といった脳圧亢進症状をきたします。
体が透析に慣れていけば、徐々に起こりにくくなります。
<治療> 症状を抑える治療として、頭痛に対し鎮痛剤、嘔気・嘔吐に対し制吐剤といった対処療法を行います。
<予防> 血漿の老廃物を急激に除去することによる、脳の血管内外の浸透圧格差が原因と考えられているため、長年の毒素が体内に蓄積している透析導入期には、1回の透析効率を落とします。例えば、血流量を少なくし、小さなダイアライザを使用し、透析時間も短くします。血液と透析液は普段は逆方向に流し(対向流)、毒素の除去効率を上げていますが、場合によっては透析液と血液の流れを同方向(平行流)とします。
 また、グリセオールやマンニトールなどの高浸透圧溶液を透析中に点滴することによって、血管内外の浸透圧の差を抑え、脳圧亢進を押さえます。
<まとめ>
・不均衡症候群は、主に透析導入期に見られる合併症
・血漿の老廃物を急激に除去することにより、脳の血管内外に浸透圧格差が生じます。
・脳内で血管内から外に水分が移行し、脳浮腫を起こし、脳は頭蓋骨の中の限られた空間にあるため、頭蓋内圧(脳圧)亢進状態となります。そのため、頭痛・吐き気・嘔吐、重症の場合には意識障害といった脳圧亢進症状が出現します。
・透析中や終了後に認め、通常は一過性で、数時間程度で回復します。
・体が透析に慣れていけば、徐々に起こりにくくなります。